
ウェルネスの本質とは?ヘルスとの違いから、自分のペースで育てる健やかさ
「ウェルネス」という言葉を、健康や美容、運動、食事などの場面で目にする機会が増えました。
けれども、ウェルネスが表しているのは、身体を健康に保つことだけではありません。
心の状態、人とのつながり、働き方、暮らす環境、自分が大切にしたい価値観なども含めて、人生全体をより良い方向へ育てていこうとする考え方です。
健康診断で異常がなくても、毎日を苦しく感じることがあります。
一方で、病気や障害とともに暮らしていても、人とのつながりや生きがいに支えられ、自分らしい充実感を感じながら過ごしている方もいます。
私たちの健やかさは、「病気があるか、ないか」という尺度だけでは捉えきれません。
だからこそ近年では、健康を人生全体の視点から考える「ウェルネス」という考え方が、医療や公衆衛生だけでなく、教育や企業、地域づくりなど幅広い分野で注目されています。
この記事では、ウェルネスという考え方の成り立ちや、ヘルス・ウェルビーイングとの違いを整理しながら、自分らしい健やかさを育てるヒントをご紹介します。
※本記事はPRを含みます。
ウェルネスとは、より良い生き方を育てるプロセス
ウェルネスには、世界共通の一つの定義があるわけではありません。
研究者や団体によって表現は少しずつ異なりますが、多くに共通しているのは、「健康な状態」を表す言葉ではなく、より健やかで充実した人生へ向かって、自ら選択し続ける過程を大切にしていることです。
世界のウェルネス産業や研究を支援しているGlobal Wellness Institute(GWI)は、ウェルネスを「全人的な健康につながる活動・選択・ライフスタイルを積極的に追求すること」と定義しています。
ここで大切なのは、「積極的に追求する」という考え方です。
ウェルネスは、誰かから与えられる完成された状態ではありません。
自分の身体や心の声に耳を傾け、暮らし方を見直し、その時々の自分に合った選択を重ねていく。その積み重ねそのものが、ウェルネスなのです。
また、その選択に唯一の正解はありません。
毎日運動することが心地よい人もいれば、静かな散歩を楽しむ人もいます。人と過ごす時間から元気をもらう人もいれば、一人で自然に触れる時間を大切にする人もいます。
ウェルネスとは、「誰かの理想的な暮らし」を目指すことではなく、「自分にとって心地よい生き方」を少しずつ育てていく営みだといえるでしょう。
ウェルネスという考え方の始まり

現代のウェルネスという考え方に大きな影響を与えた人物として知られているのが、アメリカの医師・公衆衛生学者・統計学者であったHalbert L. Dunn(ハルバート・L・ダン)です。
ダンは1950年代後半、「High-Level Wellness(ハイレベル・ウェルネス)」という考え方を発表しました。
1959年には論文「High-Level Wellness for Man and Society」を発表し、1961年には、それまでの講演をまとめた著書『High-Level Wellness』を出版しています。この著書によって、ウェルネスという考え方は少しずつ世界へ広がっていきました。
当時の医療では、病気を見つけ、治療し、不調を取り除くことが主な目的とされていました。
しかしダンは、それだけでは人の健やかさを十分に説明できないと考えました。
病気がないことだけではなく、その人が置かれた環境の中で、自分の可能性を発揮しながら、より豊かに生きていくことにも目を向ける必要があると提唱したのです。
身体だけを切り離して考えるのではなく、心や生活環境、社会との関わりまで含めて一人の人間を捉えようとしたことは、現在のウェルネスにも受け継がれている大切な視点です。
WHOが示した「健康」の考え方
ウェルネスを理解するうえでは、世界保健機関(WHO)が示している「健康」の定義も知っておきたい考え方です。
WHO憲章の前文には、次のような一文があります。
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、それから社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
この定義が示された1948年当時としては、健康を身体だけでなく、心や社会との関わりまで含めて考えたことは画期的でした。
そのため、「ヘルスは身体だけを指し、ウェルネスは人生全体を指す」と単純に区別することはできません。
ヘルスという言葉にも、身体・心・社会という幅広い意味が含まれています。
そのうえでウェルネスは、「今どのような健康状態にあるか」だけではなく、「これからどのような暮らしや選択を積み重ねていくのか」という過程に、より強く焦点を当てた考え方だと理解すると分かりやすいでしょう。
ヘルスとウェルネスの違い
ヘルスとウェルネスは、どちらも人の健やかさを考えるための大切な言葉です。
互いに対立する概念ではなく、それぞれ異なる角度から健康を捉えています。
ヘルスは「現在の健康状態」を表す視点
ヘルスは、身体や心が現在どのような状態にあるかを表す場面で使われます。
病気やけがの有無、身体機能、精神状態、検査結果など、医療や公衆衛生で用いられる健康の概念もヘルスに含まれます。
ただし、WHOの定義にもあるように、ヘルスは病気がないことだけを意味するものではありません。
安心して暮らせること、人とのつながりを保てること、社会の中で自分らしく生活できることも、健康を支える重要な要素です。
ウェルネスは「より良く生きるための過程」を表す視点
ウェルネスは、自分の状態に気づきながら、より心地よい人生へ向かって選択を重ねていくことに目を向けます。
十分な睡眠をとること、身体を動かすこと、栄養を意識することはもちろん、働き方を見直すこと、人との関係を整えること、好きなことに時間を使うこと、自分の価値観を大切にすることもウェルネスの一部です。
つまり、ヘルスが「今の状態」を表すことが多いのに対し、ウェルネスは「より良い状態へ向かって歩み続ける姿勢」を表しているといえます。
病気があっても、ウェルネスは育てられる
ウェルネスという言葉には、「いつも元気で前向き」という印象を持たれることがあります。
しかし、本来のウェルネスはそうした理想像を意味するものではありません。
治療を受けること。必要なときに休むこと。周囲へ助けを求めること。今の自分にできることを選び、自分を大切にすること。
そのような選択も、ウェルネスを育てる大切な営みです。
病気や障害、不安を抱えているからウェルネスから遠ざかるのではなく、その状況の中でも自分らしい健やかさを育てていくことが、ウェルネスという考え方の大きな特徴です。
ウェルビーイングとの違い
ウェルネスと並んで使われる言葉に、「ウェルビーイング(Well-being)」があります。
この二つは重なる部分が多く、学術分野や組織によっても定義が異なるため、明確に線引きできるものではありません。
一般的には、ウェルビーイングは「身体的・精神的・社会的に良好で満たされた状態」を表す言葉として用いられます。
一方でウェルネスは、そのような状態へ向かうための考え方や生活習慣、日々の選択を表すことが多いとされています。
例えば、安心して毎日を過ごし、人生に満足感を感じている状態をウェルビーイングとするなら、その状態を育てるために睡眠や食事、運動、人間関係、働き方などを見直していく営みがウェルネスです。
もちろん、現実の人生はそこまではっきり分けられるものではありません。
ウェルネスを続けることでウェルビーイングにつながることもあれば、心が満たされることで自然と生活習慣が整うこともあります。
どちらも「理想の人間になるための評価基準」ではなく、自分らしい健やかさを考えるための視点として捉えることが大切です。
ウェルネスが注目されている背景
現代は、暮らし方や働き方、生き方の選択肢が大きく広がりました。
一方で、情報量の増加、人間関係の複雑さ、将来への不安、仕事と生活の境界の曖昧さなど、新しい課題も増えています。
身体に大きな異常はなくても、何となく疲れが抜けない。
忙しく毎日を過ごしているのに、満たされている実感が持てない。
自分が本当に望んでいることが分からなくなる。
こうした感覚は、病気かどうかという視点だけでは十分に理解できません。
だからこそ近年は、身体だけではなく、心、人とのつながり、仕事、暮らし、環境、人生の意味などを含めて健やかさを考えるウェルネスという視点が、改めて注目されています。
「何が正しいか」を追い続けるだけではなく、「今の自分にとって何が心地よいのか」「どのような暮らしを送りたいのか」を問い直すことが、これまで以上に大切な時代になっているのかもしれません。
ウェルネスを支える7つの次元
ウェルネスを人生全体から考えるための代表的な枠組みとして、「7つの次元(Seven Dimensions of Wellness)」があります。
これは、一人の人間を身体だけで捉えるのではなく、さまざまな側面が互いに影響し合いながら健やかさを育んでいるという考え方です。
一般的には、次の7つの側面から構成されています。
身体的ウェルネス(Physical Wellness)
精神的・感情的ウェルネス(Emotional Wellness)
知的ウェルネス(Intellectual Wellness)
社会的ウェルネス(Social Wellness)
環境的ウェルネス(Environmental Wellness)
職業的ウェルネス(Occupational Wellness)
霊的ウェルネス(Spiritual Wellness)
これらは、それぞれが独立して存在しているわけではありません。
睡眠不足が心の余裕を失わせることもあれば、仕事のストレスが身体の不調として現れることもあります。反対に、自然の中で過ごす時間が気持ちを落ち着かせ、人とのつながりが生きる力になることもあります。
私たちの健やかさは、一つの要素だけで成り立っているのではなく、さまざまな側面が重なり合うことで育まれています。
そのため、7つのすべてを完璧に満たすことが目的ではありません。
「最近は身体が疲れているな」「人とのつながりが少なくなっているかもしれない」「新しいことを学ぶ時間が減っているな」と、自分の状態に気づくための地図として活用することが大切です。
それぞれの次元については、関連記事で詳しくご紹介しています。
~関連記事~
マズローの理論から考えるウェルネス
ウェルネスを考えるうえで、心理学者アブラハム・マズローの欲求階層説は、一つの参考になる視点です。
マズローは、人間の欲求を、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求などの階層として整理しました。
食事や睡眠、安全な住まい、安心して暮らせる環境など、生きるための土台が十分でないとき、人はまず不足を満たすことへ意識を向けます。
そして生活にある程度の安定が得られると、自分らしく生きたい、可能性を発揮したい、誰かの役に立ちたいという思いが自然と芽生えてくることがあります。
もちろん、ウェルネスはマズローの理論そのものから生まれた概念ではありません。
しかし、「健康を守ること」で終わるのではなく、その健康を土台として、どのような人生を育てていきたいのかという視点は、自己実現という考え方とも深く重なっています。
ただし、ここで大切にしたいことがあります。
自己実現や成長は、階段を一段ずつ上るように、誰もが同じ順番、同じ速さで進んでいくものではありません。
不安や困難を抱えている時期にも、温かい食事にほっとしたり、大切な人と気持ちを分かち合ったり、ふとした瞬間に小さな喜びを感じたりすることはあります。
反対に、生活の土台がある程度整っていても、自分の内側の変化にはまだ実感が持てない、という時期もあるでしょう。
「もっと成長しなければ」「早く次の段階へ進まなければ」と自分を急かす必要はありません。
内側の変化を実感できるかどうか、自分の状態にどれだけ気づけるかは、人によってペースがまったく異なります。
まだ実感として掴めていない感覚があっても、それは足りないということではなく、今はまだそのタイミングではない、というだけのことです。
ウェルネスは、「すべてが整った人」や「早く成長できた人」だけが目指せるものではありません。
どのような状況、どのようなペースにあっても、自分を少しずつ支えながら、その時々にできる選択を重ねていくことが、ウェルネスという考え方の本質です。
ウェルネスは、自分を責めるための考え方ではない
ウェルネスでは、自分の状態に気づき、自分に合った選択をする主体性が大切にされています。
しかし、それは「健康になれないのは努力不足」「幸せになれないのは本人の責任」「変われないのは自分の心がまだ整っていないから」という考え方とは異なります。
私たちの健やかさは、本人の意思や内面の状態だけでは決まりません。
働く環境や収入、家庭の状況、地域の安全性、医療や福祉へのアクセスなど、多くの社会的な条件からも影響を受けています。
十分に休みたいと思っていても、仕事や育児、介護などによって難しいことがあります。
健康的な食事を選びたくても、時間や費用、生活環境によって選択肢が限られることもあります。
そして、内面の変化や気づきについても、今はまだそのための余裕がない、という時期は誰にでもあります。
だからこそ、ウェルネスは「理想の生活や理想の心の状態を、今すぐ実現すること」を求める考え方ではありません。
今の自分にできる小さな選択を大切にすること。
自分一人では変えられない環境があることも理解すること。
そして、必要なときには家族や友人、専門家、社会制度などの支えを受けること。
その一つひとつを、責めることなく、今の自分に合ったペースで積み重ねていく。その姿勢そのものが、ウェルネスには含まれています。
ウェルネスを暮らしに取り入れるために
ウェルネスを始めるために、大きく生活を変える必要はありません。
大切なのは、「もっと健康にならなければ」と自分を追い込むことではなく、今の自分に目を向け、小さな選択を積み重ねていくことです。
今の自分に気づく
まずは、自分の身体や心の状態を静かに見つめてみましょう。
身体は疲れていないでしょうか。心に余裕はあるでしょうか。安心して話せる人はいるでしょうか。最近、ゆっくり深呼吸をしたのはいつだったでしょう。
答えを急ぐ必要はありません。
評価や反省をするのではなく、「今の自分はどんな状態なのだろう」と気づくことが、ウェルネスの第一歩になります。
今日できることを一つ選ぶ
疲れているなら、少しだけ早く眠る。
肩がこわばっているなら、数分間ゆっくり身体を伸ばしてみる。
忙しさで気持ちが落ち着かないなら、好きな飲み物を飲みながら一息ついてみる。
大きな目標よりも、その日にできる小さな行動の方が、無理なく暮らしに根づいていきます。
自分に合う方法を見つける
多くの人に勧められている習慣が、自分にも合うとは限りません。
早起きが心地よい人もいれば、十分な睡眠時間を確保することが何より大切な人もいます。
激しい運動より、静かな散歩やストレッチの方が続けやすい人もいるでしょう。
続けられないことを「意志が弱い」と考えるのではなく、自分に合った方法やタイミングを探してみることも、ウェルネスの大切な考え方です。
楽しさや安らぎも大切にする
ウェルネスは、将来の健康のために今を我慢し続けることではありません。
季節の風を感じること。好きな音楽を聴くこと。誰かと笑い合うこと。温かい食事をゆっくり味わうこと。
こうした何気ない時間も、人生全体の健やかさを支える大切な要素です。
毎日の暮らしの中で、「少し心地よい」と感じられる時間を増やしていくこと。それもまた、ウェルネスを育てる一歩になります。
ウェルネスを深めるための書籍
ウェルネスについてさらに学びたい方へ向けて、健康や心理、自己実現、暮らし方などを多面的に考えるきっかけとなる書籍をご紹介します。
『Life is Wellness「健康な生き方」の科学』石村友見 著

運動や姿勢、呼吸だけではなく、生き方そのものをウェルネスとして捉える一冊です。日々の暮らしの中で実践できるヒントが多く、ウェルネスを身近に感じたい方におすすめです。
『完全なる人間[第2版]魂のめざすもの』A・H・マズロー 著

自己実現や人間の成長について、マズロー自身の考えに触れられる代表的な著作です。人間が不足を満たすだけでなく、自分の可能性を生かして生きようとすることについて、より深く考えたい方の手がかりになります。
『完訳 7つの習慣 人格主義の回復』スティーブン・R・コヴィー 著

健康法としてのウェルネスではなく、主体的な生き方や価値観、人との関わり方という視点から、人生全体を見つめ直したい方に読み継がれている一冊です。
『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』ジュリア・キャメロン 著

創造性や自分らしさを取り戻すための実践書です。毎日の役割や忙しさの中で遠ざかっていた、自分らしい感覚を取り戻したいときに取り組みやすい一冊です。
おわりに|自分にとっての健やかさを育てていく
ウェルネスとは、いつも元気で、理想的な生活を送り続けることではありません。
身体の疲れに気づくこと。心が無理をしていることを認めること。安心できる人へ頼ること。働き方や暮らし方を少し見直してみること。そして、自分が本当に大切にしたいものを、焦らず思い出していくこと。
そうした一つひとつの小さな選択が、自分らしいウェルネスを育てていきます。
必要なものは、季節や年齢、環境の変化とともに少しずつ変わっていきます。
以前は心地よかった習慣が、今の自分には合わなくなることもあるでしょう。
内側の変化を実感できる時期も、まだそこに至っていない時期も、どちらも自分にとって自然な過程です。
だからこそ、「こうあるべき」という理想や、誰かの歩みの速さに合わせるのではなく、その時々の自分の状態に、責めることなく耳を傾けることが大切です。
今日、自分に一つだけ問いかけてみてください。
「今の私が、少し心地よく過ごすためにできることは何だろう」
温かい飲み物をゆっくり味わうことかもしれません。少し早く眠ることかもしれません。誰かに「ありがとう」と伝えることかもしれません。
その小さな一歩の積み重ねが、あなた自身のウェルネスを、あなたのペースで育てていきます。
参考資料
Constitution of the World Health Organization – World Health Organization https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/
What Is Wellness? – Global Wellness Institute https://globalwellnessinstitute.org/what-is-wellness/
High-Level Wellness for Man and Society – Halbert L. Dunn https://ajph.aphapublications.org/doi/10.2105/AJPH.49.6.786
